2015年4月20日月曜日

映画:「氷点」

宅配レンタルDVDの邦画一覧中で何気なく見つけた三浦綾子原作によるモノクロのこの作品、今世紀に入ってリメイクされたテレビドラマの評価が芳しくなかったという話を思い出し、映画ではどうだろうという興味から借りてみた。

これは昭和41年度の劇場版。


あらすじ:

物語の舞台は北海道の旭川、そこで病院を経営する男には妻と一男一女の子供がいましたが、男が仕事で留守にしている間に幼い娘が誘拐され遺体で発見されるという痛ましい事件が起きます。

過去の幾つかの思い当たる節から事件が起きたのは妻が自分の経営する病院の眼科医と不実の仲で、その浮気中の出来事だったと確信した夫。

妻への復讐に育児院から我が娘を殺めた犯人の実の娘であることを隠したまま1人の子を養女として引き取り、「陽子」と名付け育てるのでした。


「汝の敵を愛せよ」というキリストの教えを隠れ蓑にした夫も、夫と家庭を等閑にし不実を働いた妻も、どちらも思慮や愛情に欠け欺瞞に満ちた仮面夫婦、類稀な純真さを備えた養女をお互いが身勝手な思惑から都合良く利用しようとしているだけの凍てつく親子関係が見ていて辛い。

それ故に養女の素直さや純真さと健気さが逆に痛々しく、その寄る辺なさが悲しいのである。

妻を演じるのは若尾文子、ふとしたことから養女への態度が一変する時がやってくる、心の表情は言葉の中に現れるものだと痛感したのは語気が豹変したからではなく、真綿のような鼻濁音の優しい響きの端々に冷たさが織り込まれているのを感じたせい、巧い女優さんだなと思う。

何度か登場するフレーズ、「女は子宮で物を考える」というのがこの作品の鍵ではないだろうか。

好きだ嫌いだで忙しいだけの人間ドラマ風味の映画以外に、何がいったい「氷点」なのかを知った時の胸をえぐられるような思いも含めて、よりリアルで混沌とした人間関係を観てみたいかたには間違いなくお薦めできる映画である。

惜しむらくは終盤の展開にもう少し緻密さが欲しかった点、連続ドラマを全話欠かさず観ていて「ああ、あと1話足してこのあたりをもうちょっと細かくして欲しかった・・・」などと思う感覚に似ている。

原作を知っているからそう感じるのかもしれない。