2015年4月22日水曜日
廃線
知人から1冊の本を借りた、「棄景(きけい)- 廃墟への旅 -」というモノクロ写真と解説からなる写真集。
その中の見開き、「旧駐留軍専用線」だという舗装道路に遮られた廃線の写真、細かく見てゆけば全く違う景色なのですが、福岡の路面電車廃止後に同じような景色があったような気がする、でも場所は思い出せない、景色と言うより情景なのだろうけど。
別のページには線路上に木が茂っていたり雑草に埋もれているものもあり、廃れゆくものの耽美さとはいかなるものか、ほどほど理解できたようで、いや、やはり解せぬような、それでいて雑草と雑木の間で朽ちようとしている廃車両などはどこか温かみのある写真だった。
なんとも不思議な写真集。
廃れてしまったものが長いことその姿を晒していたままというのは実は少ない、知っている中では雁の巣の米軍飛行場跡の格納庫だったり、カネボウプール(現キャナルシティ)だったり、千早の県営住宅などと、その程度。
ほとんどのものはシートの向こう側であっという間に解体されて更地になり、気が付けば別物へと生まれ変わっているのである。
特に変化の激しい都市部では、ほんの数年立ち寄らなかっただけで、「ここはどこだろう?」と同じ市内の住人である僕ですら迷うことしばしば。
最近では福岡大学の周辺、以前通った記憶を頼って同じ道を西へ向かおうとしましたが、通り過ぎてしまってからそこが昔通った「あの場所」だったのだと気付いて驚いたものです。
片手で押しただけで倒れそうな感じの幽霊だけが住んでいそうな傍らの廃屋など、不気味さを醸し出していた竹林もろとも消え、大学生で賑わっていたバイキングの店も無くなってしまい、その周囲の道路はひとつの大きな車道となり、今やどこへ繋がっているのか解らぬ道が延びている。
そこで先の「旧駐留軍専用線」の話に戻してみると、その写真は明らかに役目を終えて廃れてしまったものを写したものだったが、運行されている路線ながらそれに近い印象を抱かせる駅がある、JR香椎線の「旧・海の中道駅」である。
跡しか残っていないけれど。
今の駅は海浜公園の入り口と同じ場所にあるのだが、昔はそれより雁の巣側へ数百メートル移動した場所にあり、近くの車道からは松林で見えず、無人駅で駅舎も遮断機や警報機もありません、ただホームだけが伸びているだけの駅、切符入れすらないので窓から顔を出した機関士さん(ディーゼル機なので)に手渡しするだけ。
周囲は松林と砂浜で民家も無く、いつもその駅で乗り込んでくるのはその駅で降りた自分と友人だけ、よくこんな場所に駅など作ったものだと常々思ったものである。
モノクロの廃線写真を見て、今はもう無いその駅から歩いて2分ほどの浜辺で泳いでいた頃を思い出す。
今では私もその時の友人も海で泳ぐどころか浜辺を歩くことも少なくなってしまったけれど。