晴れてはいるが空が霞んでいて暖かい福岡、動くと少し暑いくらいだ。
仕事を終えて入院中の友人(2015年1月25日のブログ)の見舞いに行ってきた、雨の心配もないので散歩がてら仕事場からそのまま自転車で。
病室に入ってみれば知人のベッドのカーテンの下から見舞い客の足が見えている、女性のものであるそれは一体誰が来ているのだろう、壁をノックしカーテンを開けてみれば初対面のお姉さんが来ていました。
それから3人で10分ほど小声でいろいろと話をし、また来るからねと言ってお姉さんは帰って行った。
入れ替わるようにやってきたのは看護師さん、食間に飲む薬が新しく加わったらしい、小さなプラスチックの容器に豆粒よりも小さな白い錠剤を1つ、そしてA4サイズの紙に「あなたが飲む薬は」という見出しでその新しい内服薬の名称と効果を書いたプリントを持ってきた。
薬剤名の横に成分含有量が書いてある、たったの1mg、そう、僅か1mg、ほんの1gの1,000分の1の量なのだ。
それでいて服用は1日に1度きりなのだという、成分の効き目もさることながら、生き物の体の仕組みがいかに繊細かというのがこれで分かる。
蔓を伸ばして大きく成長し、白い花弁から赤いヒゲのようなものが垂れる不思議な遠い異国の木の種を潰し、それを矢尻に軽く塗ったものでカスリ傷程度でも負わせれば水牛だって倒れるという話をずっと昔に聞いて大袈裟だなと思ったことがある。
コントロールされたソフトな医療用内服薬でさえ1mgですから、あながち水牛の話は大袈裟ではないのかもしれない。
幸いなことに私自身は何れの薬も必要としない日々を送っている、だが生きている以上病気くらいはする、その時はそんな1mgの効き目に頼るのかもしれない。
さて、頼まれていたプリンを一緒に食べながら更に話をすることしばし、そこで少し怖い話を聞いた、夢か否かの話、友人はそれが夢だったのか現実だったのかが分からないのだと言う。
夜の病院はとても静かで、当直の看護師さんが控えめに歩く音すら細かくハッキリと聞こえるほどで、他はトイレへ行く入院患者の足音や、この病院へやって来たすぐ近くで鳴り止む救急車のサイレン、そして微かに床を伝って響く振動音。
知人によるとその振動音は遠くで鳴るMRIの音にそっくりらしい。
そして一昨日の深夜、浅い眠りに度々覚醒していると、4人部屋の中にいる2人のうちの自分以外のもう1人、同じ部屋の斜め向かいのベッドの病人が「えっ!?」と軽く声を挙げたのに気付いて完全に目が覚めてしまい、何事だろうかと耳を澄ませば、それぞれのベッドを仕切る明るい色のカーテン越しに、常夜灯を遮ることなくスリッパの音を僅かにたてながらゆっくりと病室入り口に向かって歩いて行くのが分かったという。
カーテンのせいで病室内は見えずとも、知人からは病室入り口の上部が見えるので部屋を出て行くのかと思っていたらドアはスライドせず、室内は元の通りの静かなまま。
そのあたりで立ち止まっているのかとそっとカーテンを開けてみれば・・・誰もいない、そもそも斜め向かいの人は車椅子でしか満足に移動出来ないような人なのだと言う。
不思議さと気味の悪さで朝まで眠れなかったらしい。
夜が明けて斜め向かいの人を確認してみればいつも通りに肺に溜まる水を抜くチューブを付けたまま静かにテレビを見ていたとか。
薬のせいで頭がおかしかったのかもしれないと知人は笑う、それとも単に夢だったのか何だったのか、不思議でちょっと怖い話だった。