2015年5月7日木曜日

尾流雲と鵺


朝よりも昼前、昼前より昼過ぎと急速に天気は良くなった福岡、帰り着いて再び出掛ける頃にはほとんど雲もない青空になっていた。

時刻は午後3時過ぎ、福岡県宮若市の脇田まで行かねばならない、脇田温泉のある近くへである。

東区の箱崎から土井へ抜け、粕屋郡に入って犬鳴トンネルを抜けて脇田に到着、用事はそれほど時間のかかるものではなく時間にして1時間ほどだった、暗くなり始めていたのでどこへも寄り道はせず福岡市の自宅を目指す。

帰りはフロントガラス越しに暮れて行く西の空が明るかった、ちょうど福岡市側だ、我が車が走る地表は一足先に暗くなっているが空の明るさがきれいだったので犬鳴きダムのあたりで車を停めてしばし休憩。

表に出るとひんやりとしている、福岡市の空は雲がほとんどなかったが、そのダムのあたりは山があるせいか雲は多かった、既に辺りは暗くて見えにくい、まだ明るさの残る空を見上げれば漏れ出すような尾を引く小さな雲がゆっくり流れていた、尾流雲である。

たまに真夏に見掛けはするが初夏のそれは珍しいので1枚パチリ、暗くて解りにくいが尾は雨粒の集まりで、ちゃんと雨として降り落ちているのだが地表に達する前に蒸発しているせいで途中で尾は消えているのである。

ほどなくあの雲自体も小さくなって消えてゆくはず、暗くなって見えなくなるのが先か、痩せて消えてしまうのが先か。

目の前にそびえる暗い茂みの中から誰かに呼びかけるような鳴き声が聞こえる、高く細くて鋭い「鵺」(ぬえ=トラツグミ)の鳴き声、昔の人のように不気味さや不吉さなどは感じないが、いつ聞いてもうら寂しさ漂う印象なのは確かに頷ける。

鳴き声と名前は知っていても姿をこの目ではっきりと見たのはただの1度しかない、夏の那珂川町で茂みから水辺へササッと早足で出てきたかと思ったら人の気配に驚いてか一瞬で戻って行ってしまった、それきりである。

ある年代以上の人なら横溝正史原作の角川映画「悪霊島」のキャッチコピー「鵺の鳴く夜は恐ろしい」が記憶のどこかに残っているのではなかろうか。

宵の内に福岡市側へ帰り着こうと車に戻ってトンネルを抜けた、自宅に着いた頃にはすっかり暗く、鵺が鳴いていたあの場所のようにダム側からゆるゆると湿った冷たい風が吹き流れてくるのとはかなり違って、乾いた涼しい風が台所の窓から少し強めに吹き込んできた。

犬鳴きダムの風はなんとなく梅雨時の前線の北側に入った時に雨が一旦上がった時のそれを連想させる、湿度が高めで、気温は低めなあの感じ。

鵺の鳴き声を聞きたければYoutubeで「トラツグミ」を検索すると幾つかヒットする、ご興味があればどうぞ。>皆様