日暮れが早くなると不思議と居酒屋の色温度の低い電球の明かりに惹きつけられる、全国チェーンのシステム化された騒々しい居酒屋ではなく昭和臭漂う小さな店にである。
今夜もそんな店に行った、場所は薬院駅の近く、一緒に行った友人が連れて行ってくれた。
たまにテレビの取材申し込みが来ることもあるが頑として受けないらしい、店主だけで営んでいるので客が増え過ぎると手に負えなくなるし、できれば常連さんだけでひっそりと続けたいのだと言う、なるほど、その気持ちはよくわかる。
店内には既にスーツ姿の中年が4人いて同じテーブル席で飲んでいる、私たち3人はカウンターに陣取った。
4人組みの一番若そうな男が白髪混じりの男に「飲め」とビールを注がれているが若い男は「自分、酒は弱いんで・・・」と遠慮している、最初の内は白髪混じりの男も注ごうとしたビール瓶を引っ込めていたのだが酔いが回ってきたのか強引さが出てきた。
「遠慮するな、飲め」とまたすすめているのが聞こえてくる、若い男は下戸だと白状しているではないか、しつこい白髪混じりである。
その場に限らず酒のある場では似たような状況をたまに見かける、遠慮しているのではなく飲めないので断っているのだが勧めている側には何故だか理解できないらしく勧め続けるのだ、受けてもらえないと次第に不機嫌になったりする、言葉には出さぬが「俺の酒が飲めないのか」という状況だ。
もう「誰の酒でも飲めないのだ」と言い返して帰ったほうがいいのにと思うこともあるが、まあ、会社の付き合いなのでそんなこともできないだろう、下戸には拷問のような飲み会である。
そろそろ忘年会シーズンではないか、職場のそれには出席も半ば義務となっているところもあるらしい、ならば下戸にもしっかりと配慮すべきである、そもそも飲み会にまで仕事を絡めたくないのが皆の本心だと思う、義務だと言って強制することに何の得があるというのだろう、そういうのは気の置けない仲間と楽しめばいいのだ。
結局、若い男は白髪混じりのしつこさにとうとう「じゃ1杯だけ」と受けたようだった。
あーあ、楽しくなかろう。