2017年12月23日土曜日

付き合うなら口の堅い男を

クリスマス前の連休ということで街はいつもより人が多い、午後になり日が暮れるとその数も一層多くなったような気がする、そんな街の様子を知っているのは私も友人たちとの食事会で雑踏の中を歩いていたからである。

当初は小洒落た居酒屋で1次会のみを過ごそうかと思っていたのだがあいにくの満席だったので予定を変更し少しだけ遠くまで歩いた場所にある店で鍋でもということになった、私たちは4人はなるべく人通りの少ないルートを選んで移動を始めた。

ある地点でこの4人のうちの2人が向かいからやってくるハンチング帽の男に挨拶をした、「わあ、久しぶり」と親しげなのはよく知っている人だからこそであろう、その人は私たちが移動を初める前にいたあたりで晩メシでも食おうとしていたらしい、面識のあるこちらの2人が私ともう1人の了解を得た上で今から某水炊き店に行くので一緒にどうだと誘い、ハンチング帽の男はそれに乗った。

某水炊き店では予約をしていなかったが空いていたので座敷に上がった、旨いと評判の店らしいが私にはごく普通の水炊きで、不味いわけではないが評判になるほどの旨さではない、だが料金は相場をやや上回るもので人にはお薦めできない。

さて、ハンチング帽の男はハイボール2杯目で饒舌となり訊きもしない飲み屋の客や過去に付き合った男の話を始めた、よく喋る男だった。

喋るだけなら構わないが、「ちょっと前までよく遊んでいた男でね」というあたりから嫌味さがチラチラと見えてきた、座敷なので声を絞れば他所には聞こえないが、その内容たるや「○○のイク時の声がね」といったものや、「体がデカいので期待していたらナニは小さかった、あっはっは」などと大人の嗜みから外れた口外を始めたのだった。

バカな男だなと思っていたところで「△△っていうデブもいたな、すっごいヘタなんだ」と言った。

・・・ああ、「△△」とは私の友人ではないか、ハンチング帽の男が言う外見の特徴がそのままなので間違いない、それ以上細かいことは聞きたくなかったのでもういいからさっさと食えと軽口を塞いだ。

やれやれ、△△はこんな男と付き合っていたのか、もう少し相手を選べばいいのにと思う、最初のうちは誰でも人を選ぶ判断は見た目でしかできないけれど、しばらく話をしていると次第にその人の内面が見えてくるようになる、付き合い始めるのはそれからでも遅くはないが、常識のある良い人だろうという予想か願望かの段階で内面を探る手間を省くとこういう失敗に至るのだなという悪い事例の見本であろう。

ハンチング帽の男がうるさくなるのとは逆に私たちは静かになった、口の軽さが鼻について場が白けたのだ、なのでその店を出たところでさっさとそいつを切り離した。

鍋会に合流させた2人が私ともう1人に詫びた、いや、まあ、そんな奴だと知らなかったのなら仕方がない。

別れた後でプライベートを口外されるのはリベンジポルノにどこか通じる、あれやこれやと明かされるにしても知らぬ場所の知らぬ面々の前ならまだマシで、今日のハンチング帽の男のように面識のある人の前で面白おかしくネタにされるのは聞いているこちらがうんざりする。

付き合うなら口の堅い男に限るのだ。