夏休みの最終日は病院へ見舞いに行った、入院中のK氏である、お盆に見舞いなど縁起でもないと言う人はいるが、こういう時間に余裕がある時でないとなかなか踏ん切りがつかない。
私にとってはK氏はよく知ってはいるがそれほど親しくはない人である、それなのに見舞いへ行くのは共通の友人から「できたらお見舞など行ってくれたら・・・」と言われていたのだ、私がK氏と知り合ったのは私が10代の終わりの頃である。
向かう病院は市内だが私は普段行くこともない区内にあり、町名はよく知っているが具体的にどのあたりにあるのかさえよく知らないのだった。
結論から言うとバスを1回乗り継いでの行き来となった。
K氏はその病院の5階にいた、面会受け付けで教えてもらった通りの部屋へ入るとすぐに私を見つけたのはK氏だったが、私はそんなK氏を見て一瞬誰だか分からなかったのだ、最後に会ったのは10年ほど前だったろうか、恋人と思しき男を連れたK氏とばったり出会って軽く挨拶した程度だったのだが、還暦過ぎにしては体がしっかりしていて髪も黒くピンとした張りがあったのだが、今日のK氏は痩せていて実年齢以上の老け方をしていたのだ、正直なところ少しショックでもあった。
K氏は大変喜んでいたが体を起こすのがきつそうだった、まあ、入院をするくらいなのでそうなるだろう、横になったままでどうぞと言うと照れたような顔で頷いた。
私はどんな体の不調なのかは一切訊かない、K氏もその点を訊かぬ私に合わせるように詳しいことは言わなかった、ただ、順調に行けば来月の後半には退院できるだろうとは言っていた。
4人部屋だがベッドが1つ空いていて、他の患者2人は談話室にでも行ったということで病室には誰もいない、白く清潔で広い病室はガラリとしていて寂しかった、聞かれてしまう心配がないのをいいことに私たちは男の話さえした。
ふいに「戻れるとすれば何歳の時に戻りたい?」と訊かれた、うーんと考えていると「私は40歳の頃かな」とK氏は言った、K氏の40歳当時といえば・・・ああ、なるほど、仕事にプライベートに頑張っていた頃か、顔が広く年上や年下に関係なく誰からも好かれていた、悪く言う人は某飲み屋のマスターの1人くらいで他にはいなかったと記憶している、ゲイの世界では珍しいことである。
1時間ほど話をしていると隣の患者さんが戻ってきた、私もそこで帰ることにした、退院したらメシでもと連絡先の交換をして病室をあとにした。
帰りのバスの中ではK氏に訊かれたことを思い出していた、即答できなかったが私ならば、もし戻れるとするならば・・・うん、32歳あたりがいい、仕事もすっかり安定し収入面の不安もなくなり、母や上の姉、そして他界した友人たちもまだ元気だった、私自身もまだ若かったし。
そんな質問を私にし、自らも明かした病床のK氏の思いに少々切なさを感じた。
さて、私は明日から仕事である、次の連休は年末年始か、まだまだ先のようで、気がつけば目の前できっと「早いなあ」と驚いているに違いない。
いや、本当に早いのだ、そしてあっという間に歳をとる。