昼間は曇っていた、雨は明け方と夕方からで仕事が終わって帰宅するまでの間は時折り頬にポツリと当たるくらいで傘は使わぬままだった。
仕事場を出て東へ歩き、天神のドラッグストアでいくつか買い物をして地下鉄で呉服町まで行きスーパーで買い物をして徒歩で更に東へ、右脚を傷めている友人の見舞いである。
渡る川は御笠川、そのかなり手前から川面を覗き込む人の姿が見えていた、近づくにつれ男ではなさそうなのがはっきりしてきた、40代後半くらいに見える女性だった。
買い物帰りなのかレジ袋を足元に置いたまま欄干に両腕をかけて下を見ていた、もうそこまで雨が近づいているというのに、何を見ているのだろう。
女性はポケットからタバコ、レジ袋からパンを取り出した、タバコに火を付け、パンの袋を開けて少し千切ってポイと投げた、女性の後ろを通り過ぎてから私も下を覗いてみると丸々と太った大きな鯉が2匹いた、ゆったりと泳いでいる、最初に投げたパンは離れた所に落ちたので鯉は気が付かないまま流れて行った、私が覗いている時に投げたパンはすぐ近くだったので鯉はクルリと身を返して一口で飲み込んだ。
見ているところへまた左側からパンが飛んで行く、もう片方の鯉の近くに落ちたのだが先ほどの鯉が大急ぎで寄ってきてまた一口で飲み込んだ、次もそうだった。
女性はもう片方の鯉にパンをあげたいようで何度か目でやっと成功した。
気がつけば別の女性も川面を見下ろしていた、いい大人が2人で一体何を見ているのかと気になったのだろう。
女性はパンをレジ袋に戻して私がやって来た方向へ歩いて行った、2匹の鯉は同じ場所をゆらゆらと泳いでいる、まだ何か投げてもらえぬかと待っている・・・のではないだろうけれど。
橋を渡りきって病院へ着き病室へ行くと友人は退屈そうにしていた、脚は悪くとも胃腸は丈夫なので見舞いの菓子を喜んでくれた、1包ずつになっているラムレーズンのケーキだ、さっそく1つを開けて大きめのそれを一口で頬張った。
まるで御笠川の鯉のようではないか。
退院は今月後半に入ってからだという。