車の通りも少ない近所の通り、広い道からひとつ外れて遊小さな公園を囲いつつ両脇に古い住宅が並ぶ場所に延びている。
そこにはタバコ屋だった建物がある、今はタバコの販売は表の自動販売機のみで、その脇にある小さな窓は閉まっている、昔はその窓に店番が居て対面販売をしていたはずだ、窓の奥はカーテンに遮られて見えない、唯一、色褪せて水色の濃淡だけになってしまったラークのポップが端のほうに一部に見えている。
そこを通った夕方、元タバコ屋の壁沿いには足場が組んであって修繕かもっと踏み込んだリフォームなのか、何かが始まっているようだった。
どれくらい前に閉じられたか分からぬ窓の上、軒の裏には小さな穴が開いていて、私はそこがクマバチの巣になっているのを知っている、秋にそこからクマバチがポコッと顔を出しているのを何度も見掛けたからである。
11月も半ばになるとさすがにそこにはいないだろうと足場のせいで見えにくいが近寄って覗くとやはり暗く小さな穴だけだった。
足場は雨樋よりも高い、傷んだ部分は全てきれいになるだろうし真っ直ぐでない雨樋も新しくするだろう、何代にも渡って繰り返し使用されたクマバチの巣も無くなってしまうかもしれない。
いや、なるだろう、「おや、こんなところに穴があいている」・・・木材に穴など劣化の原因としか思われないはずなので。
越冬組はかろうじてどこかに場所を探すとして、来春活動を開始する頃は新たに営巣しなくてはならない、私はクマバチが古い木材に穴を掘る音を知っている、カツカツ、カリカリ、そんな音だった。
元タバコ屋がどんな風になるのかは分からないが、昭和の雰囲気そのままの佇まいは失われるのだと予想する。
年が明けて春になり桜が咲く頃、クマバチはどこに新居を構えるだろうか。