休前日の夜を早いうちに飲みに出た、地下鉄中洲川端駅近くで待ち合わせをした人と2人で居酒屋である。
結構な雨が降っていたが店内は週末でもないがほぼ満席のように見えた、私たちは4人掛けのテーブル席に着いて喋りながらの飲み食いで口も箸も忙しかった、客らそれぞれの話し声と笑い声で騒がしかったが酒の席での雰囲気としてはこういった賑やかさが実は好きな感じなのだ、まあ、連れがすっかり気心も知れた古くからの友人だからこそそうやって楽しめるのだけれど。
私は約束の上で飲み食いに出掛ける場合は相当親しくならないと行動を共にしない
ほどなくして小上がりのサラリーマンらが帰ろうとしたのだが、そのうちの1人がすっかり酔いつぶれてしまって赤い顔で熟睡していた、帰るぞと皆が声を掛けてもうるさそう少しだけ目を開けては手で追い払うような仕草をするだけでまたすぐに眠ってしまう。
「よーし、置いて帰るぞ」とまるで駄々っ子に言い聞かせるように言った1人がこれでは埒が明かないと判断したようで面倒臭そうではあったが眠る仲間を抱えようとした、その抱えようとした男は三十路後半くらいの大きな男だった。
自分のショルダーバッグを思い切り背中側に回し、「よいしょ!」と掛け声ひとつで赤い顔の酔っぱらいを小上がりの縁へ移動させ苦笑する他の仲間が靴を履かせ、別の仲間と一緒に店の出口へ。
仲間のひとりが精算を済ませて外へ出ようとしたところで体を預けていた酔っぱらいが床に崩れ・・・そうになったところを大きな男がもう一度「よいしょ!」と支えた、だが、酔っぱらいはぐにゃぐにゃなので思うように外に出れない。
私はそんなに酔うまで飲んでしまうのかと呆れて見ていたのだが、なんと、大きな男は酔っぱらいの背中に回した右腕はそのままに、今度は左腕を両膝の裏へ回し、酔っぱらいを抱えて外に出て、数歩進んだところで脚を下ろしてなんとか立たせたのだった。
そこで店の引き戸が閉まったのでその後は見ていない。
なんという力だろう、パッと見た目で何かスポーツをやっていたか、現役でやっているかという体格の人だったが、やや細めとはいえ力を抜いた男をよく抱えることができるなとその怪力ぶりに驚いた。
私も以前に宅飲みで酔いつぶれた友人をとなりの部屋に移動させ毛布を掛けるという行動だけで汗だくになり腰を痛めるのではないかと本気で心配したものだ、まあ、体格からして私とあの大きな男は基礎的な部分で違っているのだけれど。
そう、力を抜いている人を移動させるのは大変である、なにせこちらの動きに合わせて体の位置を変えてくれるわけでもなく、楽なように少しだけ自力を足してくれるわけでもない、たとえ体重60kgの痩せ型さんでも米10kg入りの袋で6袋分ということになる。
・・・無理だ、私にはぐにゃぐにゃの酔っぱらいなど到底抱えきれない。