久しぶりに昭和感たっぷりな邦画を見た、松本清張原作で野村芳太郎監督の「疑惑」である。
今日ここで書くのは映画そのものの感想ではないのであらすじ等の紹介はしない。
書きたいのは2大女優のハマり役ぶりなのだ、保険金目当てで夫を殺害したとして罪に問われる白河球磨子(旧姓は鬼塚球磨子)役を演じる桃井かおりと、その球磨子を弁護する国選弁護人の佐原律子役を演じる岩下志麻だ、この2人の迫真の演技の競演は素晴らしいの一言に尽きる。
特に桃井かおりの鬼気迫る演技には映画だと分かっていても憎たらしさが湧いてくるのだ、口調もそうだが人を小馬鹿にしたあの目と面倒くさそうな表情、絶世の美女というわけではない点がフィクションであることを忘れさせもする。
後に何度かテレビドラマにもなり、私は都度観てきたがどれも駄作で終わってしまっていた、物語の展開には違いが無いはずなのにどうしても面白味に欠けるのは桃井かおりと岩下志麻、そして両者の持ち味を存分に引き出せる野村芳太郎監督がいないからなのではないだろうか。
特に沢口靖子が白河球磨子役を演じていたテレビドラマは残念ながら随分と外してしまったと思う。
この映画に於ける桃井かおりの毒々しさはどこから来るのだろう? 仮に監督から「こんな風に演技しなさい」と指示が出たとしても、監督の要求を満たすレベルで演じてみせるには監督との感覚をある程度以上は共有していないとできないことだと思う。
バラの花を見たことが無い人に「花びらの先端がわずかに外側に反り、それはしっとりと柔らかで、赤く幾重にも重なる丸い形を作る花を描きなさい」と言いつけ、更に細かく特徴を言い伝えても、描いたものがバラにはならなかったとしても何ら不思議ではない、バラを見たことがないので相手が知っているバラのイメージを自分の脳の中から引っ張り出して共有できないからである。
桃井かおりに毒婦そのものを演じろと指示しても、その様を桃井かおりが知らなければああいったハマり役っぷりは生まれてこなかったと思う、なので、あの毒々しさは桃井かおりが既に知っているものだったのだ。
自分が経験したのか他所で見聞きしたのかは分からぬが、その経験はこの映画に存分に活かされていると思う、きっと、いつかこの映画をリメイクする時が来たとして、果たしてこれら2人を超える配役で作れるものだろうか、仮の話の想像の中でのことだが大いに興味はある。
それともう1人、球磨子がまだ旧姓の鬼塚だった頃に一時期勤めていたクラブの女将の堀内とき枝役を山田五十鈴が演じているのだが、これもまた一癖ある役柄で山田五十鈴は見事に演じきっていた、こちらもハマり役。
YouTubeには松竹による作品紹介の動画がアップされていた、この冒頭に貼っておくことにする、興味があればクリックでどうぞ。>皆様