2016年2月24日水曜日

見物人の駄洒落

今日の午前中の忙しさはかなりのものだった、仕入れの魚が遅れたせいである、魚の卸業者が配送に使っている軽トラックが途中で故障したらしいのだ、保冷は万全だったので品質に問題はなかったのだが到着が約1時間遅れた、そのぶん仕込みも遅れた。

開店時間も迫っているのにやらなくてはならぬことが山積みで時間は押していた、間の悪いことに今日に限って食材卸業者の営業所長さんが挨拶にやってきたのだった。

こちらは手元の作業を止めるわけにはいかない、勝手口に立つ所長さんとは背を向けたままの会話である。

「いやいや、今日は忙しそうだね」と還暦間近の所長さんが言う、「じゃ、またね」とでも帰って行くのかと思ったが「ここに座って眺めているから気にしないで」と折りたたみイスを広げて勝手口のあたりに腰掛けた。

「赤い魚、黒っぽい魚、あれはサザエかな? 野菜も芋があるね」と座ったまま見回した範囲内の諸々に興味を示している、なんだか楽しそうであった。

仕込みの〆はクロ(メジナ)だった、固い鱗を引かなくてはならない、冬場のクロは煮付けにすると大変美味であるが一般にはあまり知られていない、高級魚ではなく大衆魚である、・・・ああ、急がねば、時間がない。

「ここに来るといろんな食材が見れて楽しいね、選り取り見取り、笹みどり、あーはっは」・・・。

脱力である、力が抜けすぎて笑ってしまった、平成生まれには決して理解してもらえぬ駄洒落である、「笹みどり」という人のことすら知らぬだろう、いや、昭和生まれでも昭和50年代前半がギリギリのところだろうか。

所長さんがよく使う聞き飽きた「瓜三つ」(「瓜二つ」がより強調されたジョーク)よりは新鮮味があって良いのだけれど。

一通りの仕込みが終わってホッと一息、所長さんはまだ座って見ている、時間は大丈夫なのだろうかと思ったら鹿児島産の新じゃがいもの煮物の味見がしたかったようで待っていたのだった、小皿に芋を何個か乗せて楊枝を差して渡すと熱いと言いながらも食べていた、パートさんが出してくれた番茶を飲むとごちそうさまと帰って行った、なんだか子供のような人で面白い。

それにしてもオヤジの駄洒落は言った本人が真っ先に笑うケースが多々あるのはなぜだろう、まあ、私もそんな昭和臭プンプンな世代のうちの一人なのだが。