朝は晴れていたものの、仕事を終えて表に出るとポツポツと小さな雨粒が落ち始めていた、南寄りの風がなんだか暖かだった。
傘をさすまでもないのでなるべく濡れぬようにとビルの壁に沿って歩いたり中を通り抜けたりで天神まで移動、天神地下街を端から端まで早歩きで往復した、とは言っても周りの人たちと歩く速さは変わらない、普段から周りが速いのか、それとも私がのっそりと遅いのか。
・・・多分後者だ。
ひとしきり歩いた後は階段を上って地上へ、屋外でも気温は高めで地下街はなお高く、その上に歩いたので暑くなり地上に出てきたというわけだ。
雨はまだ傘をさすほどではなかったので少しその周辺を歩いてみた、今度はのんびりと。
とあるコンビニの入り口付近、そこは喫煙所になっているようで灰皿の横にタバコをふかしながら男が立っていた、私の友人によく似た人がいるなと思いつつその数メートル離れてその人の前を通り過ぎようとしていたら男が声をかけてきた。
男は友人によく似た人ではなく、友人そのものだった。
挨拶もそこそこに禁煙したのではなかったのかと訊くとあまり我慢し過ぎるのはストレスになってよくないと医者に言われたので量を減らせばいいかと思うようになり再び吸うようになったらしい、なんだ、医者の勧めではなかろう、普通に「吸いたくなった」と言えばいいのにと思うと可笑しくなった。
いや、そもそも働いているはずの平日の昼間に天神にいるのはどうしてなのだろうと訊けばもっと自分に向いた仕事が他にあるのではと思い始めて同僚に相談したところ納得のいく仕事を見つけたほうがいいよとアドバイスしてくれたので思い切って辞めたという、いや、それも同僚の勧めではない、普通に「辞めたくなった」と言えばいいのにと思うとまたも可笑しくなって今度は噴き出してしまった。
「お前は言い訳太郎だ」と笑いながら言うと「えええっ?」と驚きつつ友人も笑っていた。
まあいいではないか、第三者の考えを経由しての自身の行いとしたほうがクッションを間に挟んだようで言いやすいというのは理解できる。
ちなみに、禁煙期間はどれくらいだったのかと訊けば2ヶ月と答えた、おお、禁煙が辛い人には永遠のように長い2ヶ月だったことだろう。
そう、非喫煙者に煙を流すことなく、自身も吸い過ぎぬ程度に楽しめればそれでいいのだ。