2018年3月1日木曜日

竹林での怪異

平日が休みな友人から漬物を貰った、車で遠出した時に買ったもので数日前のものだ、濃い醤油漬けのそれは瓜にキュウリと人参の3種類からなっており、まさに醤油色な見た目ほどには塩味は濃くなくパリパリとした歯ざわりと相まってとても旨い。

ついついご飯を食べ過ぎてしまいそう、ありがたや。

そんなドライブの延長のような旅での不思議な話を聞いた。

明らかに手入れされているであろう竹林とその傍を流れるせせらぎを見つけ、そこに差し込む昼下がりの日差しの美しさに車を停めて水の流れに沿って少し歩き、そして竹林の中に入ってみたという。

種類は分からぬが鳥のさえずりも聞こえたりで雰囲気はとてもよかったらしい。

澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで風にざわめく頭上の竹を見回していたところ、ふと、誰かの気配を感じて辺りを見回してみたものの人の姿はなく、ただ見通しのよい竹林が広がっているだけの光景だったそうだ。

それでもやっぱり誰かいるようなので隅まで目線を配り念入りに探してみたところ、少し遠い場所の竹の陰に誰かがいるようにも見えたので、立ち位置を微妙にずらしてみたのだが別の竹の陰になったりでうまく確認できず、気味が悪かったが少しだけ近づきながら確かめてみると誰かいるように見えたものの距離を縮めると誰もいないのが確認できたという。

なんだか安心して先ほどまで立っていた場所に戻り、更に竹林に入ってきた場所に向かって歩いているとまたも人の気配を感じて振り返って眺めるとやっぱり先ほどの竹の陰に1人分の影があるように見え、急に怖くなって竹林を出ようと早足で明るい場所に戻る直前に再度振り返ってみると先ほどの1人分の影のようなものはすっかり消えてその向こう側の景色がはっきりと見えていたそうだ。

その後、友人は明るい日差しを受けながらせせらぎに沿って車に戻り、すぐさまその場を離れたという。

妙な足音や声を聞いたわけでなく、だが、影らしきものがきれいに消えていたのを確認したということは、先ほど近づいた場所にはやはり何かいたのだろうかと友人は気味悪そうに言った、近づくと姿を消し、離れると現すという怪異なのか、不思議な話だ、気のせいにしても気味が悪い。

そもそも竹林には独特な雰囲気がある、背丈を超える範囲まで滑らかな竹が伸び、葉が茂るのはずっと上ばかりで、周囲は見通しが良いのに薄暗いのだ、そして風が吹こうものならざわざわと一斉に鳴り出すのである、普通の雑木林とはいろんな点で違うのだ。

友人を怖がらせたそれは、熊本県との県境に近い大分県某所での出来事である。