薄暮も消えて空が夜なりの暗さになった頃、部屋の中がやや暑かったのでベランダ側の窓を開けたままにして仕事用に買った品々の領収証などの整理をしていると「カサカサ・・・」と微かな音がそちら側から聞こえた、そろそろコガネムシやアオドウガネが灯りめがけて突進してくる季節でもあるのでそれだと思って見てみると、なんと、長さが7cmほどのムカデだったのでぎょっとした。
色の薄いトビズムカデなのか、アオズムカデなのかはっきりしない個体だった。
私の住まいはマンションの4階だ、下の1階や自転車置き場にはムカデがよく出るのは他の住民も知っているが、うちへはベランダ側から入ってきたのだから壁を伝ってやって来たのだろう、それか非常階段から少しずつ上がって4階に辿り着き、いったん同じ階の別の部屋に入り込んでベランダに出て、非常扉の下をくぐってうちにやって来たのか。
餌になりそうな虫がたくさんいるわけでもない私の部屋になぜやって来るのだろう、迷い込んだにしては上の階過ぎないか、まあ、その点は何にせよ入って来たものは排除しないといけない、とりあえずごみ入れをムカデの上にドスンと乗せて割り箸とビニール袋と輪ゴムを用意、ごみ入れの下のムカデを割り箸でつまんで袋に入れ、逃げ出さぬように輪ゴムで口を縛って捕獲した。
これくらいの大きさならまだ袋を咬み破っては出てこないはずである、特に大きなものだと安心はできないが。
あとは袋の一部に小さな穴を開け、ノズルを付けたサビ取りなどにも使う家庭用の潤滑油をシュッと一瞬吹き込めばすぐに呼吸ができなくなって死ぬはず、殺虫剤は効くまでに時間がかかり、苦しさから暴れて危険なムカデやスズメバチには潤滑油のほうが私は確実だと思っている。
袋の中のムカデはごみ入れを乗せられた時に体の一部が傷ついたらしくそこを舐めていた、袋の下から指で突くと慌てて動き出すのだが、気が落ち着くとまた体を曲げて傷口を舐めている、きっと自然の中でもそうやって傷つく度に自分の体をケアして生き長らえているのだろう。
なので今回に限り殺さずに捨てることにした、まったく面倒臭いことをさせるものである、場所は歩いて10分ほどの川沿いだ、民家からは距離があり、橋の近くで草ぼうぼうではないがバッタやコオロギくらいならいそうな場所である、ムカデを捨てに行った時はブザーのようなクビキリギスの鳴き声が騒々しかった。
薄暗い場所でビニール袋の輪ゴムを解いて中身を捨てようとしている私はまるで不審者のように見えただろう、自分のことながらそう思う。
まるで宵のうちの散歩である、小腹が空いたので帰り道でファミマに寄った、菓子パンと同じ棚に袋に入ったファミマオリジナル(?)のドーナツを見つけた、リング状の豆乳なんとかとクリームの入ったものを買い、部屋に戻ってお茶を淹れて夜のおやつの時間にした。
ああ、太るはずだ。