2016年9月2日金曜日

タクシー運転手の受難

仕事帰りに郵便局へ寄った、早い内に定形外郵便を2通出す必要があったので雨が降っていたのだが今日のうちに済ませた。

その郵便局の入り口まであと少しという地点を通る私の左側、歩道の端には片手に傘を差し、もう片方でアルミ製の杖をついた痩せた男性がいて、傘を持つ手をより高くあげてタクシーを停めた。

タクシーのドアが開いて中から運転手の「こんにちは」という声が聞こえた、私はそのまま郵便局へ入ろうとしたのだが、何が気に食わなかったのか男性が「こんにちはじゃないだろう、さっさと降りてきて傘を持つのが礼儀じゃないのか? 俺の脚が悪いのは見りゃわかるだろ?」とかなりの大声で文句を言ったのだ。

私は内心「何を言っているのだ、こいつは」と思った、ドアが開いたのなら中へ入って目的地を告げてさっさと行けばいい、それだけのことだ、脚が悪くても行動できるのなら人に傘など持って貰わなくても時分で車に乗り込めばいいし、それが当たり前なのだ。

そんな輩を横目に見つつ郵便局の中へ、私の前には額面の違う切手を組み合わせて1,500円分欲しいという客と局員が相談しながら複数の図柄の切手をトレーに集めていた、続く私の用件は2通分の料金を払いレシートを受け取ればそれで終わり。

郵便局の中では3分ほどいたに過ぎない。

傘立てから自分の傘を抜き取り雨の降る外へ、・・・と、先ほどの男性とタクシーがまだそこにいる、どういうやりとりの結果かは分からぬが運転手が車の外に出て男性の隣に立たされているのだ、雨に濡れながら説教されていた。

呆れた、「こんにちは」の何が気に食わないのだ、男性はびしょ濡れの運転手に「偉そうにするなよ?」と杖で胸をグイと押した、これにはさすがにムッとしたのだろう「申し訳ありませんでした、では失礼します」と運転席に戻って走りだした、男性は「逃げるのか!」と罵声を浴びせていたがタクシーはそのまま走り去った。

その様子を少し離れたバス停から中年の女性たちが眉をひそめて見ていた。

タクシー運転手も決して楽な仕事ではない、ノルマ達成に長時間の勤務、それ以外にああいった自分を神だとでも勘違いしている客の相手をしなくてはならない、いつだったかテレビで車内カメラで撮られたトラブルの映像を何編か見たことがある、運賃踏み倒しや車内嘔吐、酔っぱらいに絡まれて足蹴りされるという暴力事件も起きている、いや、それだけではない、強盗目的でドライバーが殺害される事件まで起きていてニュースになっているではないか、本当に危険できつい仕事だと思う。

それでも客の前では仏頂面にはなれない、きつくても笑顔で挨拶でいなくてはならないのだろう、まあ、中には運転手にも横着な奴はいるけれど。

今日のびしょ濡れになっていた運転手は頑張ったと思う、爆発しそうになるのをグッと堪えていたはずだ、なにせ傍で見ているこちらの腹が立ったほどだったのだ。

世の中楽な仕事など無いけれど、ああ、タクシー運転手もきつい仕事である。