今日は仕事が無いので休み、夜更しだろうが深酒だろうが平気なのである、ああ、休前日のこの開放感、仕事をしているからこそ得られる休前日の貴重さと高揚感は社会人であることの賜物だと思っている。
そんな楽しい休前日は馴染みの飲み屋へ行った、いつもの顔ぶれの中に珍しい人がいた、仲間内では「嘘つき○ラボー」と呼んでいる、面と向かっては「嘘つき○ラボー」だ、要するに私はそいつが嫌いなので常時「嘘つき○ラボー」と呼ぶ、他には「おい」や「こら」程度だ。
そいつと出会ったのはまだ10代の頃だった、1歳年下のそいつとは初めの頃は仲が良かったのだが、ある日を境に嫌いになったのだ、いつも数人のグループでグダグダと夜が更けるまで飲んで喋るのが楽しかったその当時、そいつはグループに加わって楽しむのは良いのだが帰る頃は深夜でバスも電車もないので足がない、夜が明けるまでどこかで過ごすこともあったのだが大抵はその辺りの自転車を盗んで帰っては自宅近くの適当な場所に放置して終わりなのだ。
私は仰天した、盗まれた人はたまったものではない、「お前は泥棒だ、自転車を返せ」と言うと本人は「え?」とキョトンとしている、まるで私のほうが変だと言わんばかりの顔で見るのだ、なので理解させようと私はある日行動に出た、そいつが自転車を盗むところで警察に通報したのだ、本人の特徴や向かった方角を詳しく伝えた、遠ざかるそいつの姿が見えなくなった後は何がどうなったかは分からないが、それからピタリと自転車泥棒をしなくなったのできっと捕まったのだと思う。
自転車を盗むのは止めたが知り合い連中から寸借詐欺をするようになった、いろんな理由をつけて数千円程度を借りてまわるのだ、1回に数千円だが回を重ねると大きな金額になる、結局返したのはほんの一部で踏み倒して東京に逃げてしまった。
東京へ行ったあとはしばらくは何をしているか話も入ってこなかったが、実はなんと飲食店の店主になっていたのだった、そこでは福岡での評判の悪さも伝わらない上に持ち前の口の巧さで人気者だった、某警察署の一日署長などやったこともあるというから驚くではないか、その時の画像を見て仰天した、自転車泥棒で寸借詐欺の男が一日署長か、変な世の中だ。
ところがある日突然に東京の店を畳んで福岡に帰って来た、はっきりとした原因は分からぬが察しはつく、福岡ではしばらく息を潜めて暮らしていたようでどこで何をしているのかはほとんど伝わって来なかったが、遊び好きな性格からかいつまでも家に篭っているのは苦しかったのだろう、最近になってちょくちょく見かけるし話も入ってくるようになった。
なんでも母親が亡くなったらしい、が、それはもう4回目のことなのだ、母親は4回亡くなっては4回蘇り某商店街で今も働いている、スーパーゾンビなのか、とんでもない話である、これからどんなことで驚かせてくれるだろうか。
嘘つき○ラボーはいつまで経っても、何歳になっても嘘つき○ラボーなのだ。
某飲み屋では居心地が悪かったのか早々に勘定を済ませて出て行った、きっと別の店に行ったのだろう、どこに行っても敵は多そうである、まあ、身から出た錆なのだ。