2013年12月2日月曜日

映画:「去年の夏 突然に」

1959年の古いアメリカ映画、キャサリン・ヘップバーンにエリザベス・テイラーの競演ならば見てみたくもなるではありませんか。


あらすじ:

アメリカ南部の州立病院、そこの外科医はロボトミー手術(脳に外科手術を施し精神的な障害の改善や回復を図るというもの、現在は行われていない)で世に名を知られた男。

ある日その病院へ多額の寄付を地元の未亡人が名乗り出ました、ただし、暗に引き替えとして別地の病院に入院中の姪へのロボトミー手術が条件、外科医は自分が勤める州立病院へ転院したその姪と面接し、外科手術では解決できない暗くて深い心の傷を感じ取るのでした。 


物語の場面のほとんどが病院と未亡人の暮らす邸宅というのがなんとも舞台向き、それ以外は終盤の回想シーンで登場する他所の国の白く眩しい暑い海辺。

邸宅内に設えられている熱帯林風の庭は悪趣味、降りてくると言うよりは「降臨」と言ったほうがぴったりな感じで登場する未亡人が使うエレベーターや室内の装飾もそれにまた近い。

人の話を遮ってばかりの未亡人や、喋りたてるばかりで全く要点を得ない姪の母親などは身近に居そうで登場人物の現実味は充分。

婉曲なセリフを重ねてゆくうちに判明することが次第に増えてくる、回想シーンですら顔を明らかにすることが無かった未亡人の息子は同性愛者であったこと。

しかも未亡人とは近親相姦である可能性を強く感じさせるということ、母親の溺愛が原因か、息子の過剰な強迫観念が原因か、あるいはその両方か。

それぞれが語ることで物語は終盤へ、去年の夏に旅行先で未亡人の息子に何が起きたのかが重要な鍵であることを確信した外科医は邸宅内の庭に関係者を呼び、皆の前で姪に無意識下で隠している過去を明らかにさせるのですが、それは実に衝撃的で凄惨な出来事。

それら諸々を明かす姪の語りと回想シーンがシンクロで流れてゆくのが緊迫感を煽る、それは姪の脳内イメージとして描かれているのですが、唯一最後にイメージと現実との悲鳴が重なるあたりなど良くできていと思う。

ただ、その回想シーンは良かったのですが、その中での出来事は常軌を逸している事態で、そのせいで未亡人の息子は命を落としたということは分かるのだが何がどうなってそこに至ったのかという点、肝心なそのあたりがモヤモヤとしていまひとつ理解できないまま。

もうひとつ解せないのはいつの間にか姪と外科医が恋仲に陥っていたこと、外科医が封印していた記憶を解き放った直後に清々しい笑をたたえる姪と手をとり合って物語は終りなどというのではなく、あれだけ衝撃的な内容を明かしたのだから「点滴を打ちながら1週間入院しました」といった終わり方のほうがまだ納得しやすい。

未亡人役のキャサリン・ヘップバーンは「旅情」、「招かれざる客」、「黄昏」などとはかなり違った役どころで楽しめたものの、正直言えば他の女優さんのほうが良かったかなという気がする。

姪役にぴったりの若いエリザベス・テイラーと消化不良気味のキャサリン・ヘップバーンの競演を見てみたいという人にはお薦め。

このモノクロ映画が作られた1959年に同性愛、近親相姦、ロボトミー、そしてなんとなくカニバリズムすら匂わせる描写は当時としては難しい面が多かったのではなかろうか。

原作がテネシー・ウィリアムズだと言えば、なんとなく物語の風味は推して貰える・・・かも。