2011年6月20日月曜日
映画:「怪談」
自分の生まれた年に公開された映画を探していて見つけた邦画(1964年ではなく翌年だという説もある)、原作は小泉八雲の「怪談」と「影」、「骨董」からの4話を集めたオムニバス。
1話目の「黒髪」が「影」から、2話目の「雪女」と3話目の「耳無し芳一の話」が「怪談」から、4話目の「茶碗の中」が「骨董」から。
あらすじ :
「黒髪」:貧しさに疲れた武士が献身的で優しい妻をある日捨て、富と地位を欲し甘やかされて育った我が侭な女を娶ってしまう、が、その冷淡さに昔の妻の有り難さと無下にも捨ててしまった後悔とで再び戻り荒れ果てた懐かしの建家で再会を果たし、心から詫び、夜を共にするのでした。
「雪女」:山へ薪を取りに行った男が帰り道で猛吹雪に遭い山小屋へ避難するのですが、そこで連れだっていたもうひとりが凍死してしまう、ただし単に凍えて死んだのではない、白い着物の女が凍てつく吐息を吹きかけるのを見てしまったのです、女はこのことは誰にも口外するなと男にきつく口止めしました。
「耳無し芳一の話」:阿弥陀寺に住む芳一という名の盲目の琵琶の名人、他の誰もいない夜に高貴なかたの前で琵琶を披露してくれと迎えに来た男に連れられて行くのでした、翌晩も、雨の晩ですら・・・、次第にやつれる芳一と、その行く先を怪しんで跡をつけてみればそこは墓場、幽霊に魅入られている芳一を救おうと体中に経文を書き、繋がりを絶とうとします。
「茶碗の中」:本筋は執筆中の物語を途中まで書いて完結させなかった作家の話ですが、副筋ではその途中で終わった物語そのものが展開されるという一風変わった話、それは茶碗に張った水を飲もうとするとそこに見知らぬ男が映っているというもの、ほどなく実体として目の前に現れ、刀で斬りつけるのですが壁の中に消えてしまい何者かは不明のまま、後の夜にその謎の男の家臣を名乗る3人の男がやって来て、主君が斬りつけられて負った傷の恨みは必ずはらすと告げるのでした。
俳優陣の豪華さ、空気感まで伝わってきそうなセットの設えの良さ、人の身のこなしや流麗な言葉、様式美、そして派手な今時の色合いとは全く違う日本の伝統色の鶯茶、桧皮、薄白葱、黒紫・・・、どれもが美しい。
なにより武満徹による音楽と音響効果は凄いです、琵琶の音色には鬼気迫るものがあります、映像を省いても音に捉われてしまいそう。
昨今の血飛沫とびっくり箱のセット品のような痛いか汚いばかりの「怖い映画」とは一線を画す作品で、怖さよりも人の世の儚さや業や情を描く小泉八雲の繊細な物語であり、日本で生まれ育った作家によって誕生して欲しかったとさえ思ったもので悔しさを感じるほど素晴らしい。
個人的に最も良かったのは4話目の「茶碗の中」、見た人はこれをどう解釈するのだろう、その点も興味深い。
それにしても皆若い、三國連太郎も、仲代達矢も、中村嘉葎雄も・・・。
47年前ですから、当たり前なのだけれど。
この映画、強くお薦めします、アナログ世代にはどこかに懐かしさを、デジタル世代には未知で不可思議な世界の有り様を味わって欲しいと思う。