長引いた仕事を終えた帰り道、とうに日は暮れて夜である、いつの間にか降ったらしい雨でアスファルトが濡れていた、風が無い上に雨が蒸発して空気が淀む、その大変な湿気に汗が腕にまで噴き出して不快なことこの上なし。
こんな日は冷房の効いた場所へ逃げ込むか早々に帰宅するかのどちらかを急ぐのみ、早くシャワーを浴びたくて寄り道は無しで帰宅することを選んだ。
自宅までもう少し・・・という某公園に差し掛かった時に聞こえてきたのは「イッキ! イッキ!」という何人かの若い声、今時まだそんなことをする輩がいるのかと歩きざまに見てみると・・・、まだ10代にしか見えぬ相当若い男女数名が同じ仲間であろう若い男を囃し立てている。
酒を飲んでいるふうではない、何の「イッキ!」だというのだ。
若い男がベンチに向かって体勢を整えているのが確認できる場所まで来た時に、そのベンチの上に角ばったペットボトルが置いてあるのが見えたのだ、男はその上に瓦割りのように右手を合わせていたのである。
もしや、あのペットボトルを空手チョップで潰そうというわけではなかろう・・・と思った瞬間(!)、満身の力を込めてその通りのことをやってしまった。
初めてペットボトルを目にする古代人ではなかろうに、その丈夫さくらいは知っているはず、もしや空とはいえキャップを閉めたままのペットボトルだったのだろうか、だとしたら相当頑丈で蹴飛ばそうが踏みつけようがちょっとやそっとでは潰れない。
若い男は悲鳴を上げ、胸元に右腕を抱えるように膝を付いて唸っている、肘か手首を傷めてしまったのだと思う。
「大丈夫!?」と声を掛ける仲間たち、・・・何を言っているのだ、大丈夫ではないからこそ腕を抱えてそこにうずくまって唸っているのだ。
あーあ、痛そうだ・・・、やっぱり酒も入っていたのかもしれない。
「若者よ、夏休みに浮かれてバカな真似はするな」。
若い男はニュートンの亡霊にそう叱られたも同然なのである。