友人とアプリの無料通話で話していると昨晩のことについて私自身のことにも思い当たる不思議な話を聞いた、「昨晩はなんだか夜が気持ち悪くて変だった」というものである。
気持ちが悪いとは食あたりなどで胃の調子が悪いといったものではない、友人は普段とは違う印象や感覚に気持ちの悪さを感じていたのだ。
昨晩、友人はいつも通り最寄りの地下鉄駅から自宅までの10分ほどを歩いていて奇妙なことに気付いたのだという、遅くなった仕事帰りの夜道で雨上がりの霧でも出ているのか、風が濁っているせいかはわからぬがいつもより風景がぼんやりと明るく、屋外でありながらなんとなく狭さを感じる見慣れた街並みは誰も歩いておらずとても静かでなんともいえぬ不安感に襲われたそうだ。
そんな話を聞いてそういうことなのか分からぬ人は少ないだろう、友人自身も初めての経験でうまく説明できないと笑っていた。
いや、そんなことはない、私には分かるのだ。
いつのことだったかははっきりと思い出せぬがたぶん同じであろう感覚に陥ったことがある、当時市内の早良区に住んでいた友人の家に行く夜に体験したのだ、友人の家には駐車スペース1台分しかないので私は少し離れた場所のコイン式パーキングに車を停めたのだ、そこから友人宅までの間には金屑川という小さな川があり橋が架かっていて、そこを渡っていると霧でもないのにあたりが妙に明るく、横方向に狭いというよりは曇り空が低くなったような閉塞感を夜の街並みに感じたのだった、短い橋の上から川の上下どちらを見てもなんとなく明るく、向かう橋の袂の先に道路もそうだった、街灯が多いわけではない。
辺りの静けさが特に印象的で、緩く流れる川の微かな音さえ聞こえてくるほど静かだったのだ、人や車の姿もなく言い表せぬ気持ちの悪さを感じた、私にはそれが初めてであり、それ以後は今に至るまで2度目の同じ経験はない。
そのことを言うと「そうそう!」と友人は喜んでいた、自分でもよくわからぬ感覚を共有できる誰かがいることが意外でありなんとなく嬉しかったのだろう。
いや、私もその時のことはうまく言い表わせないし、そもそも何がどうなってそんな感覚に陥ったのかよく分からないでいる。
友人の場合は50代の今だが、私は30代後半だったと思う。
んん、一体なんだったのだろう、化け物が登場するはずもなく、ただ単に街並みの様子にふと気付いた点があるというだけなのだが、なんとも不思議な体験ではあった。